(1)好きなメニューを選ばせない親
ある時、私はあるご家庭とロシア料理を食べに行った。メンバーは50代の父母とその大学生の息子、私である。父親は私にご馳走してくれる気、満々でその店で一番高いコースを勧めてくれた。確か、壺焼きが付いていて、その中身が蟹だったりベーコンだったり、チーズだったりで7種類くらいから選ぶシステムだった。
その息子は少し迷って「ベーコン」を選択した。すると父親がこう言ったのだ。
「なんでベーコン? この場合、(正解は)蟹だろ? 蟹?」
今度は母親がこう応じた。
「そうよ、せっかくなんだから蟹にしなさい、蟹に!」
その息子がこう言ったのを私は忘れない。
「じゃ、蟹で……」
その場で「大変だね、君も」と応じた私にその息子が今度はこう言った。
「まあ、いつもどおりですよ。(俺の)意見は(通ら)ないんで……」
親子の暗黙の了解にクビを突っ込んでしまったバツの悪さたるや。ただ、この私が感じた「違和感」をこの子の両親は露ほども感じていないことだけは確かだ。